PTA活動でも気をつけたい肖像権の問題

肖像権という権利は、何かの法律で条文上規定された権利ではありません。憲法の規定を根拠に最高裁判所の判例で認められた権利です。
すなわち、肖像権とは「みだりに自己の容ぼう等を撮影され,これを公表されない人格的利益」です(最判昭和44年12月24日参照)。これは、日本国憲法第13条に規定された「幸福追求権」を根拠に認められると解されています。
プライバシー権としての肖像権を認めた上記最高裁判例は「京都府学連事件」と呼ばれています(最判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁)。これは、学生運動が激しく行われていた1962年に、大学管理制度改革に対して反対するデモ行進に参加しているところを写真に撮られた立命館大学法学部の学生が、これに抗議する過程で撮影した警察官を小突いたため、学生の公務執行妨害罪および傷害罪の成否が争われた刑事事件です。
日本国憲法
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

人を撮影し、公表する場合には,本人の同意を得なければ肖像権侵害になります。なお,小学生・中学生は未成年者なので、同意を得るべきは親権者(一般的には親)からです。

現在では、上記の京都府学連事件判例から一歩進んで、肖像権については以下のように2つの内容で整理されています(最高裁判決平成17年11月10日 和歌山カレーライス事件法廷写真等掲載事件)。

  • 人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する
  • 人は、自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有する

PTA活動における肖像権の2つのポイント

この肖像権は2つの側面を持っています。すなわち、人格権である「プライバシー権」としての側面と財産権である「パブリシティ権」としての側面です。PTA活動において主に問題になるのは、前者の「プライバシー権」としての側面です。
この「プライバシー権」としての肖像権は、さらに撮影されない権利である「撮影拒絶権」と、撮影された肖像写真の使用に関する「利用拒絶権」に分かれます。
児童・生徒を撮影して公表する場合には、本人(権利者)の同意を得なければ肖像権侵害になります。この点について、小学生・中学生は未成年者なので、同意を得るべきは親権者(一般的には親)からです。

なお、学校に在籍する児童・生徒がタレント活動をしている場合には、後者の「パブリシティ権」も問題となりえます。

PTA活動において肖像権が問題となるのは、主に「PTA会報誌」や「集合写真」についてです。そこで、本稿では「運動会の写真を会報で利用する」ケースについて肖像権と個人情報の問題を検討します。

運動会写真と肖像権

撮影について

運動会で写真を撮影する場合には,各自の承諾を得る必要があります。各自にはプライバシー権としての肖像権の一部である「撮影拒絶権」があり、被写体である児童・生徒の承諾を得なければ児童・生徒の肖像権侵害となるからです。

公表について

撮影した集合写真を公表する際にも、被写体からは肖像権についての承諾を得る必要があります。撮影は許可していても、公表までは承諾していないケースも考えられます。すなわち、プライバシー権としての肖像権のうち「撮影拒絶権」は行使しないが、撮影された肖像写真の使用については「利用拒絶権」を行使して公表を拒むケースもあります。

運動会写真と個人情報

「個人情報」には該当する

個人情報保護法上の「個人情報」とは、「生存する個人に関する情報」であって「特定の個人を識別できるもの」です。運動会参加者は生存する個人なので、個人が識別できる写真については「個人情報」に該当します。

「個人データ」には該当しない

前述の通り、特定の個人を識別できる運動会写真は「個人情報」に該当します。しかし、運動会の写真は検索可能な形に整理されたデータとは言えないため、個人情報保護法上の「個人データ」には該当しません。

運動会写真への具体的対応(顔がわからない場合)

肖像権について

顔が判別できないレベルの写真については、「容ぼう等の撮影」には該当しません。したがって、肖像権の問題は生じません。

個人情報について

顔が判別できないレベルの写真については、「特定の個人を識別」できない情報なため個人情報には該当しません。したがって、個人情報保護法上の問題は生じません。

運動会写真への具体的対応(顔がわかる場合)

肖像権について

顔が判別できる写真については、「容ぼう等の撮影」に該当するため肖像権の問題が生じます。したがって、肖像権の利用(写真の撮影・写真の公表)について親権者からの同意を得る必要があります。

個人情報について

顔が判別できる写真については、「特定の個人を識別」できる情報であり個人情報に該当します。
しかし、集合写真の中にある顔写真は検索可能な形ではないため「個人データ」には該当しません。したがって、その第三者提供については個人情報保護法上の問題は生じません。

コメントは受け付けていません。